蝉しぐれの夏はいつまで経験できるだろうか?~盛夏に

日本語には、動植物を形容する(様子を表す)ときに、自然の現象を使っているというものがあります。

たとえば「花吹雪」。花の、といっても花といえば日本人には桜ですが、その桜の花びらが散る様子を”吹雪”という自然現象で表しています。桜の散る頃、つまり、三月末から四月の初めにかけて、日本ではよく風が吹くので、花びらが雪のように舞い、それを”吹雪”で形容しているわけですね。

しかし、よく考えると、ここでのこの”吹雪”は花を形容できる程度のものだということです。
ヨーロッパの雪深い国では、もっと激しい風雪でヨーロッパ文学に登場する吹雪は、”恐ろしいもの”の象徴として、よく使われます。我々が、温暖な気候区(温帯)に住んでいるからこそ、”花吹雪”といった美しい言葉が可能になるわけです。

さあ、そして”蝉しぐれ”。この言葉は花吹雪と同じシステムで成り立っていますが、もっと日本人らしい感性爆発です。
蝉の鳴き声を”時雨”という雨で表現しています。蝉のしきりに鳴いているかと思うと、急に音が寸断され、又、聞こえる、を断続的にくりかえる、それをふったりやんだりする雨の呼び方”時雨”を使って説明するのです。

聴覚を視覚でというこのワープ。言葉へのすばらしいセンスが感じられますね。しかし、上記してように、このような美しい言葉を我々日本人が持つことができるのは、温帯という四季のある国に属しているからです。私たちはあたりまえのように思っていますが、世界中で四季を持つ国はそんなにたくさんあるわけではありません。
近年、なんだか異常気象が続き、日本の四季も崩れてきているように感じます。
“蝉しぐれ”といった言葉を生み出すことができた我々の祖先と同じ環境の中で、我々もいつまでも居たいですよね。
そして君たちは、この言葉のセンスを見習ってみがいて下さい。