じゃがいもからでも学べる   ~地理・歴史・理科

十二月ともなると、やはり暖かい食べ物がいいですよね。おでんとか、シチューとか。
そのシチューですが、じゃがいもが入っているのが定番でしょう。今や、世界中で食べられている「じゃがいも」ですが、「じゃがいも」を「地理」の知識で眺めると、どうでしょうか?

そう、米、小麦、とうもろこしといった穀物が収穫できない、つまり、肥沃でない、寒冷な土地柄のところで食べられてきたものという押さえはできていますか?
日本だと、地球温暖化前の北海道だったり、ヨーロッパではフランスより北部、ドイツのイメージです。(だからドイツは小麦の白いパンでなく、ライ麦パンですね)

「じゃがいも」のふるさとは、アンデス高地です。そこの住民が雑草型の「じゃがいも」を栽培化したものだそうです。「じゃがいも」があったればこそ、山岳の地に文明を築けたの です。(古代の四大文明は、大きな川の流域、つまり、肥沃な土地柄でしたね)
一方、歴史としてみると、肉類を食べていたヨーロッパ人は、それを調理するための「こしょう」は必須でした。だからこそ「こしょう」を求めて男たちは外洋へと冒険の旅(16Cの大航海時代)に出るのですが、偶然に、南・北アメリカ大陸を発見することにつながります。
南アメリカでスペイン人は、タマネギ、トマト、ナス、じゃがいもといったものに出会いそのおいしさに驚き、本国に持ち帰ります。(これ以前、イタリアのパスタには一体何がはいっていたのでしょうか、少し興味深いですね。)
そして、じゃがいもは、フランスやイギリス、ドイツに広がっていきました。(スペイン、イタリア、ギリシャなどは暖かいので。じゃがいもは定着しませんでした。地理の常識ですね)しかし、当初、じゃがいもは決して人気のある食べ物ではなかったそうです。じゃがいもは「聖書」に出てこないということで普及が遅れたり、食べると病気になるという偏見さ
えありました。

ところが、18Cになり、ヨーロッパを飢饉が襲います。とくに1770年のそれはひどく、しかし、その中でも「じゃがいも」は成育し、多くの人が命を救われたそうです。
それ以降、「じゃがいも」はヨーロッパのそれぞれの国で国民食となり、フィッシュアンドチップスのポテトチップス、フレンチフライポテトのいわゆるフライドポテト、マッシュポテトとして親しまれ、そして何より、名前のつく料理ではなくても、寒さの厳しいヨーロッパでは、どの家庭でもシチューの中に「じゃがいも」が入るようになります。

日本には、江戸時代、オランダ船によってジャワ島から「ジャガタライモ」としてもたらされました。日本の飢饉でも活躍します。北海道で明治時代、川田男爵がアメリカから種を買い、(いわゆる「男爵いも」)南と北から日本中に広まっていき、家庭でのカレーライスにはもちろん、日本的な品と思われる「肉じゃが」にはじゃがいもが主役として使われるようになっていきます。


このようにみてくると、「じゃがいも」は地理的な基本知識と、大航海時代以降、世界地図が作られ、世界史をいろいろな人々や物が行き来してきた歴史を教えてくれます。

アンデスの民の改良の「努力」と海を渡った男たちの「勇気」、何度も起こった飢饉をのりこえた人々の「知恵」など、シチューの中の「じゃがいも」はいろんなことを考えさせてくれる起点となる勉強の『種』としても、とてもすぐれたものです。