日本人の感情の底に流れる「無常観」
君たちが生まれてからの短い間に、東北の震災、中越地震、木曽の火山の噴火、そして熊本の地震と、日本列島は次々と自然災害に見舞われています。
わたしたちが住む風土は、環太平洋造山帯に属しているので、火山の噴火があります。又、ユーラシアプレートとフィリピンプレートが重なり合っている(注一)ので地震も多く、さらに、南方の太平洋で発生する台風の通り道になるということで、我々日本人は古代から何度も何度も自然災害に苦しんできました。そのような風土の中、古代人は「無常(むじょう)」ということばを用い始めます。「無常」とは「常無し(つねなし)」ということ。「常」とは「平常」、つまり普通の状態ということです。
だから「無常」とは「普通の状態はいつも続くことはない」ということを表します。まさに近年の日本の風土はこの「無常」を痛感させられますね。
中学二年生になると国語の教科書に「平家物語」が登場します。
祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。
娑羅双樹の花の色、盛者必衰のことわりをあらはす。(注二)
この「平家」の冒頭は学校で暗唱させられると思いますが、ただ暗唱し、この一節に流れている物の考え方はとテストで問われ、「無常観」と書いて〇をもらうといったレベルでなく、この「無常」をしっかり獲得しておくと、高校生になってからの古文読解にたいへん役立ちます。(「方丈記」・「奥の細道」冒頭など)
しかし、ここでもっと大切なことを考えてみて下さい。「平常なことは続かない。この世は無常だ」と悟ると、何だかいろいろなことをがんばったり、トライしてみたりするのも結局は空しいのではないかと思うかもしれません。つまり、
「いつ・どんなことが起こるかわからない、全て崩れてしまうかもしれないのだ」
としっかりとわかっていながら、じゃあどうでもいいやではなく、それでもやはり日々やるべきことをやるんだという、古来からの日本人の姿勢は「たいへん強い心」を持っているということですね。
それを五・七・五に見事に言いあらわした有名な句を最後に。
「つゆの世はつゆの世ながらさりながら」
露のようにはかない世の中とわかっている。そうだけれども・・・。(注三)
・・・のところにたいへん強い意志が感じられますね。
「何が起ころうとも受け入れ、平常心でいつものように淡々と勤勉に」これは震災時、世界が驚いた「日本人の姿」です。
(注一)殻にヒビの入った玉子を思い描いて下さい。私達の大地はその殻です。しかも一定方向に少しずつ動いています。
(注二)漫画「銀魂」の忍者キャラ「さっちゃん」の登場文句ですね。また、KANA-BOONの曲に「盛者必衰のことわりお断り」というのもありました。
(注三)小林一茶の名句のひとつです。
2016.6月